2009年12月3日木曜日

ならまちライブ

先週の記事で触れたが、落語とライブ(「歌うたい」と称している)のイベントに参加することになり、奈良へ帰省した。
このイベントは、中高時代の友人でアマチュア落語家でもあるM氏が中心となって数ヶ月に一度行っているものである。
後半の歌うたいコーナーは毎回、M氏、Y氏にリードギタリストG氏を加えた「はんなりブラザーズ」が受け持っている。
私はそのユニットにゲストのベーシストとして参加することになっていた。
ひと月ほど前にY氏が送ってくれた二曲分の音源ファイル。それにあわせて炬燵に入りながら一人でベースのアレンジと練習を行い、大体感じはつかめていた。

帰省の交通機関は飛行機や夜行バスを使うことも多いが、今回は楽器を預けたくなかったので、新幹線にした。
時代おくれのソフトケースに入ったフェンダーの黒いベース。
中学生のとき祖母にねだってはじめて手にしたものであり、これ以外のベースを所持したことはない。

木曜日の夕方だった。
『鹿男あをによし』の第一回のように、京都から奈良へ向かう近鉄電車に乗った。
充血したような夕陽が車窓から、ちょうど私たちに並走しつつ低い山の稜線上を転がってゆく

近鉄奈良駅からJR奈良駅へと歩き(結構遠い。)関西本線に乗って午後6時前にはY氏の経営する歯科医院に到着。さっそく二人でセッティングをはじめた。
7時すぎにM氏が到着した。
リードギターのG氏は仕事の都合で来られなかったため、三人でさらに音のバランスを調整しつつ、新参の私が参加する二曲を中心に音をあわせていった。
自然と曲に抑揚が生まれ、Y氏の歌いかたも、私のベースのアレンジもそれにつれて変化してゆく。
音源ファイルによる練習では決して生まれない一体感、これこそがバンドの醍醐味である。

ライブ前日の土曜日の夕方には、会場へ機材を運んでさらに練習を行った。
リードギターのG氏を加え、最終的な音のバランスを調整する。

今回の会場は落語のためのスペースであり、音響に関する設備はなく、機材はすべて持ち込みである。
本来ならばベースはベースアンプにつなぎたいところだが、機材が多くなりすぎるため、シールドケーブルを直接ミキサーにつなぐことになった。
このためか、どうしても低音の圧力が不足してしまった。
途中まで使っていたギター用のシールドケーブルを、私が用意していたベース用のものに交換すると、幾分改善された。

この日も深夜まで練習は続き、後片付けをして食事し、帰宅すると日付は変わっており、寝たのは結局3時すぎであった。
帰宅後ベースの弦を替えようとしたら、用意していた弦がベースのサイズにあわない、つまり短すぎるものだったということが判明した。
ベースのスケール(長さ)にはラージ、ミディアム、ショートという三種類があり、私が所持しているベースはミディアムスケールなのだが、なぜかショートスケール用の弦を購入していたのだった。

翌朝11時半の集合時間までになんとか弦を購入し、リハーサルがはじまるまでの間に張替えなくてはならない。
すこしはやめに奈良に到着し、ネットで探しておいたJR奈良駅付近の楽器店に行ってみると、年老いた店主が一人で経営しているローカル色豊かな店で、ベースの弦もあるにはあったが、私がほしかったダダリオというブランドの弦はロングスケール用のものしかなかった。
大は小をかねるということで、しかたなくそれを購入した。
帰り際に店主が「あわてんと、ゆっくり張替えてください。」と言ってくれた。

会場に着くと早すぎてまだ開いていない。
すこしばかり散歩しようと楽器を背負ったまま奈良町を少々散歩した。
もともと中世からの古い町並みで知られた場所ではあるが、近年はカフェなどのおしゃれな店も増え、日曜日ということもあって多くの観光客がそぞろ歩いている。
漢方薬のお店に立ち寄って生姜飴を購入したところ、お店の女性が私の背負った楽器に目をつけ「近くで演奏するの?」と聞いてくれた。
「奈良町落語館で午後からやります。」と答えたが、落語館をご存知ではない様子であった。

11時半ちょうどに会場入りした私は、楽屋となっている仏間――つまりここは個人宅でもあるのだが――にこもって弦の張替え作業を開始した。
先ほどの楽器店店主は「張り替えたことあるんやったら、余計なことは言わんとこう。」とおっしゃっていた。
もちろん弦の張替え作業は何度も行っているのだが、実のところ十年以上ぶりであり、緊張していた。
ロングスケール用なので、太さは同じだが長い。
したがって先の余る部分をペンチで切ることになる。
このとき、まず弦を折り曲げてから切断しないと、弦の性能が著しく落ちるらしい。

金属そのものの色にかがやく新しい弦。
それにくらべると、とりはずした古い弦は輝きを失い、衰えたものとして目に映った。
それを、新しい弦の切れ端といっしょに袋につめこんだ。

新しい弦を張ったベースはビリビリとした金属質のノイズをたてつつ、よく鳴った。
最初はあちこちにゆるみがあるので、しごいたり引っ張ったり、弾き込んだりして慣らしていかなくてはならない。音程も狂いやすい。
本番まで時間があるにもかかわらず、急いで作業をしなければならなかったのはそのためである。

メンバーが揃うとすぐに機材を並べ、最終リハーサルを行った。
私の前に置かれた譜面台は、尺八をやっている父から借りてきたもので、アルミ製で軽い邦楽用の簡易版である。

リハーサル直前に最大のピンチが発生した。Y氏のミスで4つほどのエフェクターがこわれてしまったのである。
エフェクターとは、ギターの音色を加工するための小型の機器であるが、電圧の違うACアダプターをつないだため、おそらくはコンデンサーが飛んでしまった。
なんとか無事だったいくつかのエフェクターを使って演奏することにして、急遽セッティングを変更し、どうにかリハーサルを開始することになった。
時間がないので、各曲の一部だけをやった。

私はもともとは、二曲のみ演奏する予定だったが、最後の二曲を残して引っ込むのもさびしいので、それらも急遽弾くことにした。合計四曲である。
ラストの曲は前日のリハーサルでも弾いていたが、ラスト前の曲については、このリハーサルでワンコーラス弾いたのみのぶっつけ本番となった。

リハーサル終盤には気のはやいお客さんが入ってきた。
といっても最初に来たのはわれわれの中高時代の恩師、そして二組めが私の両親だった。

機材をいったん片付け、第一部の落語である。
最初に登場するのがM氏なのだが、ネタをコピーした紙を前日、会場に忘れて帰ったとかで、結局覚えきることが出来なかったらしい。
そこで、予定していたネタとは違うものを急遽演じることになってしまったが、さすがに何の問題もなくこなしていた。

二人目に登場したのは、われわれの中高時代の先輩にあたる方である。
非常に上手く味のある落語で、われわれも楽屋兼仏間で出番を待ちながらつい笑ってしまうほどであった。

休憩10分のあいだにスタンバイを行い、演奏がはじまった。
セットリストは全部で7曲だがY氏、M氏を中心にしたトークがかなりのウエイトを占めている。

3人の「はんなりブラザーズ」による演奏3曲が終わり、M氏の紹介で私が登場した。
といっても、最前列の客席から高座前の椅子まで2メートルほど移動したのみであるが。
実は演奏よりもむしろトークのほうに緊張していたのだが、なんとか切り抜けて4曲めがはじまった。
これはM氏の作詞作曲によるミディアムテンポのバラード曲である。
Y氏、M氏がサビのワンフレーズをアカペラで唄い、つづいて私が背後の高座に置かれたリズムマシンのPlayボタンを押す。カウントのあとイントロ。
緊張もあったので、落ち着いて正確に弾くようにこころがけた。

5曲目でY氏がギターをオベーションのエレアコからレスポールに持ち替えるため、私とM氏がトークでつながなくてはならない。
曲はG氏が高校生のときに作った曲で、彼がリードボーカルを担当する。また、カズーという笛のようなプラスチックの楽器をハーモニカホルダーに挟み、間奏を吹いた。
ベースは基本的に八分音符のべた弾きするのだが、低音の音圧が足りないせいか、ノリを出すのがとても難しかった。
5曲目終了後には再度Y氏のギター持ち替えが発生し、再度トークである。実のところトークに関してはほとんどM氏におんぶにだっこ状態であった。

さて、6曲目、これはY氏の作曲であるが作詞したおぼえはないとのこと。つまり作詞者不明。
土曜日の練習のあとにスコア(といっても歌詞の上にコードが書いてあるだけ。)をコピーしてもらい、眺めているうちにこれなら弾けると思って練習をはじめたのが当日の朝。
コード進行がシンプルだったので、出かけるまでには歌いながら弾けそうなくらいの感じになってはいた。
先程のべたとおり、フルコーラスあわせるのはぶっつけ本番だったが、気持ちよく弾くことができた。

基本的にはコードのルート音、たとえばCというコードならC、AmならAの音を弾くだけなので、べつに難しいことはないのだが、ボーカルの音域の都合などで、作曲後にキーを変えてあったりすると少々ややこしい。
ギターはカポタストという器具を使うことにより、簡単に言うとギターの長さを縮めることによってキーを上げることができるが、ベースにはそういったものがないため、頭の中で音をずらさないといけなくなる。
6曲め、7曲目をほとんど即席で弾けたのは、こうしたキーの変更がなかったからでもある。
スコアの音名を書きなおせば済む話かもしれないが……。

ラストの7曲目はM氏の作詞作曲による、10分ほどにもおよぶ大作であり、台詞というか語りのパートもある。
歌詞の内容は挽歌ということになるが、やさしい言葉でつづられており、メロディーも覚えやすく美しい。

「はんなりブラザーズ」の楽曲はどれも親しみやすいもので、M氏の美声をよく生かしていると思った。
ちなみに三人の音楽的バックグラウンドは、Y氏がロック、M氏がポップス、G氏がブルースといったところか。それらがバランスよく組み合わせられていると思う。
私も次回からはゲストではなく正式メンバーということになるようだ。

いろいろとトラブルがあったとはいえ、ライブはおおむね成功だったと思う。
身内や知り合いがほとんどだったとはいえ、オーディエンスの反応もあたたかいものだった。

イベント終了後判明したことだが、ビデオテープの交換ミスのため、私の登場直前に録画が切れてしまっていた。
したがって、演奏シーンをyoutubeもしくはニコニコ動画にアップするという目論見は残念ながら頓挫してしまった。

さて、以下に掲出する拙句は、練習のなかった金曜日、実家の近所の信貴山と竜田川の紅葉を見てまわった折のものである。

人造湖くらき紅葉を映しけり   中村安伸

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