2009年10月1日木曜日

中央分水嶺

   雲生まる雪渓よりもまだ淡く       広渡敬雄 


 9月のシルバーウィークに上越(新潟・群馬)国境の大水上山(おおみなかみやま、1831米)に登った。
登山口から、標高差1300米、約5時間。頂上付近は既に秋の真盛りで、雑木紅葉、草黄葉、熊笹の緑のコントラストが素晴らしかった。
この山には、「利根川水源碑」があり、日本最大の流域面積を持つ利根川の最初の一滴は、 この南峰東側斜面の「三角雪渓」に始まり源流となる。
ここから銚子河口で太平洋に注ぐ迄322キロを流れ下る訳だ。この水は飛び切り冷えていて手がしびれる程だが、喉越しが唸るほど旨い。
頂上近くで、防水タイツ、渓流足袋姿の4名の登山者に会った。
南の水上町、宝川温泉の奥の奥利根湖で舟をチャーターして湖の最深部まで運んで貰い、そこから利根川源流の沢筋を忠実に辿り二日半かけて登ってきたとのこと。
晴天故にさすがに夜は冷え、6度だったと話していた。
この雪渓付近は夏は高山植物があふれ、カモシカ、熊等ともよく遭遇するらしい。
又雪渓付近は大気が冷えているせいか、雲が生まれやすい。

 霧も瞬く間に広がり、視界を閉ざしまた過ぎ去ると視界が戻る。
鳥兜が群生している所があり、吹き上げた霧が過ぎ去ったあとびしょりと濡れていた。

   霧過ぎしあとの水滴鳥兜  

 稜線付近の鳥兜は、山野のそれと違い、絶えず風雪、霧にさらされているせいか、小振りで色彩が殊に濃いように感じられ、愛おしい。
一方、この大水上山の稜線の逆の斜面の水は、魚野川を経て日本最長の信濃川となり、日本海に注ぐ。
と言うことは、この稜線は、日本列島(北海道~九州)の6000キロにわたって縦断している中央分水嶺(または大分水嶺)そのものなのである。
単純に考えれば中央分水嶺は、より高い山岳の頂上を通過するようにも思えるが、ことはそう簡単ではなく、日本高峰上位三山である、富士山、南アルプスの北岳、北アルプスの奥穂高岳の山頂は、その線上にはない。

  広げたる地図に雲海迫り来る

 この中央分水嶺は、日本列島の背骨たる山稜を辿るが、途中で峠等も通過するので、自動車で知らず知らず通過しているケースも多いかも知れないが、総じて海抜は高い。
但し、とびきり標高が低くわずか海抜95米しかない所がある。
それは、兵庫県丹波市氷上町石生(いそう)の水分れ公園。
この一滴が各々由良川を経て日本海に、加古川を経て瀬戸内海(太平洋)に注ぐ。
ともに約70キロとの標識がある。
誰にでも気軽に行けるせいか、中央分水嶺を手頃に実感出来、その水に手を浸すと不思議な感慨が生まれる。いつか湧き上がるような句を得たい。


   

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