2009年9月25日金曜日

 ― Yoko Yoko Road ―





  少しだけあらがふやうに砧かな    青山茂根



 どこかに泉を隠しているから、砂漠は美しいのだ、と言ったのはS・テグジュベリだが、半島にはどこかに灯台がある。この休日は、三浦半島を廻った。

 朝比奈インターに近い、山一つ越えれば鎌倉、という地に学生の頃住んでいたことがある。遊ぶところも何もないけれど空と海が近いところだった。今でこそ八景島に行楽施設ができて賑わう場所となっているが、当時はやっと人口の砂浜を持つ海の公園が整備されたくらいで、野島の漁船が係留された岸ぞいや、海を目指していくと日産のテストコースがあるあたりは、夕日を見に、一人でもぼんやりと訪れるところだった。近くに感じられる、海を目指してどこまで走っても、野島公園の小さな浜以外に、水辺に降りられる地はないのだ。徒労感の中で見る、海に沈む太陽。

 山向こうの鎌倉の八幡宮は、その中にある研修道場へ行くためにしばしば訪れた。武道系の大会や、昇段試験の会場によく使われるところなのだ。近代的な建築にはなっているが、ところどころ伝統的な意匠が取り入れられた道場で、外気を入れるために上げる半蔀など、参拝客もまばらな辺りの静けさとともに、好きな場所だった。

 城ヶ島や、観音崎の灯台もいいが、今回は剣崎へ向かった。といっても、いきあたりばったりで、海岸付近の道が混んでいたので三崎方向には行かずに空いている方へ進んだ。逗子や葉山の人手にぶつかるなら、誰もいない、海へ落ち込んでゆく緑の畑が広がる三崎辺りを走るほうが好きだ。夜の静かな灯台や、岩場から見る夜光虫、この辺りのどこを曲がっても小さな入り江に行き当たる。日中の潮溜まりで小さな海老や鰯を捕まえるのも面白い。以前能登半島を旅したときも、灯台から灯台へ訪ねていくルートを採った。夏が過ぎると、三浦あたりも、一部を除いて、ひと気がなく、静かな海ばかりだ。秋の夕方の、誰もいない砂浜を歩くのも楽しい。海猫の足跡と、犬を散歩する人、浜辺から釣竿を投げる父子、湾がすっかり暮れて、秋の灯がささやかに水辺を彩るまで、眺めている。


 三浦海岸駅のすぐ近くに、幕末の海防陣屋跡がある。といっても、わずかに復元された門と壁があるだけなのだが、当時まだ16歳ぐらいだった、のちの木戸孝允や伊藤博文が詰めていた地という。そういえば、幼い頃を過ごした太平洋岸の町にも、海防陣屋跡があったことを思い出す。波の荒さも、海の色も異なるが、浦賀に近い、こちらのほうがずっと重要な拠点であったことだろう。西洋式灯台建設以前の、菜種油を燃して船の目印とした燈明堂跡も浦賀に訪ねたかった。

 安針塚、二子山も歩いてみたいし、荒崎海岸、天神島、秋谷etc、人のまばらな秋のうちにまだ訪れたいところばかりだ。

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